『これは良い香りだ!』と安心していたら・・・

あなたは火入れしていて『これは失敗したな・・』と思った経験ががありませんか。

たいていの場合、火入れ中でなく、何日かたったあとで気が付くことがおおいのではないでしょうか。どんな火入れ機であれ、一定量のお茶に熱を当てるとその部分から芳香が発生します。

そこで『これはいい香りだ!』と、つい納得してしまうのですが、そこで安心してはいけません。なぜなら、香りの出ているお茶は火入れしたお茶のほんの一部でしかない可能性があります。

良い火入れのできたのは全体の10%のお茶で、残りの90%は火が入っていないとしても、わずか10%でもいい香りは立ち込めますから、それで納得して満足してしまうことも起こりうることです。

火入れしたときに最高の香りであったのに、時間を経過すると『あれ?こんなだった?』と感じることはありませんか。

この原因は保管状態の問題であることもありますが、じつは火入れそのものが不十分であり、加熱が均一でなかったケースも多いのです。

料理であればフライパンの中の一部を拾い上げて味見ができます。何回か味見をすれば失敗は防げます。ところが火入れの場合、香りのサンプリングというのは困難です。

火入れの加熱ムラはなぜ起こり、どういう現象を引き起こすのでしょうか。

今回一般的なドラム型の火入機を例にとります。

あるお茶を10kgドラムで火入れすると仮定します。ガスバーナーを着火し、温度を上げてゆきます。設定温度になるまで高温で加熱します。

最初はドラムの底部、バーナーの部分だけが局部的に高温になり、接触したお茶が加熱されます。ドラムが回転することにより混合し、全体に熱が拡散され徐々に一定の温度に近ついてゆきます。

ところが実際に火入れをして取り出した後のお茶の温度は同じではありません。

原因はその時間の短さです。

火入れ時間を何時間という長時間行えばやがてはすべてのお茶の温度は一定になるわけですが、お茶の比熱と形状(大きさや水分量がバラバラで、場合によっては茎や粉も含まれる)を考慮すると、30分程度の短時間では大きな加熱ムラが残ったままなのです。

大きな中華なべに10kgのお茶を入れチャーハンのように炒めることを想像してみてください。

攪拌手もなく、ただ回転するだけです。直接火の当たる部分とそうでない部分では大きな温度差が生じることは容易に想像がつきます。

10kgもの大量のお茶ですから、例えば品温(茶温)の設定温度を120℃にしても、30分程度ではすべてのお茶が同時に120℃になることはありえません。

火入れ用ドラムの形は福引などに使われるくじ引き器と同じで、よく混合する形体を持っているため温度分布がほぼ正規分布する傾向があります。

図は30分ほど経過し、取出しに近くなった状態での茶温の分布例です。

実験値としてののデータをご紹介したいのですが残念ながら現在のところ瞬時にすべての温度測定が出来る環境がありません。あくまで経験をもとにした仮説としてご理解を御願いします。(今後サーモグラフィー等の採用を検討しデータとしてご報告いたしたいと考えています。)

火入れされた茶温の分布の例

図1

このように実際の茶温はほぼ120℃近くにある部分が全体の50%あると想定しましょう。130℃の部分が20%、140℃の部分が5%くらい含まれると推測できます。

香りをしっかりチェックすると、この高温の5%のお茶(図の黄色の部分)は焦げ香を発生する直前ですからこれ以上は危険であると判断します。

つまり火入れはここで終わりで、取出しになります。

品温(茶温)制御で自動取出しすると5%(500g)のお茶に過度の火入れ部分が混入します。

まーこれくらいは香ばしくていいかと安心してはいけません。

問題は下の低温の部分です。温度分布は正規分布と考えられますから設定温度プラス10℃、20℃のお茶と全く同量のマイナス10℃、マイナス20℃のお茶が含まれているわけです。

つまり、10kgのお茶のうち設定温度に達していない110℃のお茶が20%の2kg、100℃の生(なま)のお茶が500gも含まれている計算になります。

図2.火入れされた茶温の分布の例

図2

この火入れの弱い2.5kgの部分が時間を経過するにつれ明確になり、問題を引き起こします。

火の戻り?

火入れの際には設定温度を超えた高温部2.5kgの部分が強い香りを発生しますから、『いい火が入った』と感じるはずです。しかし、後日香りをチェックすると『あれ?火が弱い』と感じたことはありませんか?

『火が戻った』という言葉をよく聞きますが、それは『戻った』のではなく、実際は20%以上の『火が入っていない部分が顔を出した』と考えるべきです。

図3.火入れされた茶温の分布の例

図3

 

火の戻りを前もって計算して、実際の感覚より少し強めに火入れをしようとしても上記の例でいえば140℃以上の危険温度のお茶が出来てしまうため危険です。

これは厳密なデータではありません。しかし現実にこれに近い現象が起きているのは間違いないと思います。

ノーコンのピッチャー

ノーコンピッチャー火入れムラの大きい火入機は野球に例えるとコントロールの悪いピッチャーです。

お茶にはそれぞれ香りを最も引き出される温度帯が存在します。

そのお茶に良い香りを放つ成分が100あるとしたら、その温度において90とか95とか出来るだけ100%に近い多くの成分を引き出さなければもったいない話です。

お茶のすべてをその最適温度帯にもってゆくべきです。

ところがノーコンのピッチャーでは内角ギリギリまで攻めることができません。120℃に合わせたら140℃になる可能性があるのでは、デッドボールを恐れて110℃にしか投げられないのです。

その場合30%以上ものの生のお茶を作ることになります。

フォアボールの連続では試合になりませんが、火入れはそれで何となく済んででしまいます。

せっかく精魂こめて育て、荒茶加工されたお茶のおいしさを十分引き出さないまま、飲まれ、茶殻になってしまうのでは買って頂いたお客様だけでなく、生産者の方々に申し訳ない気がします。

火入れムラの起こる火入機はお茶を台無しにしてしまう。

もったいない・・・・・

もったいない・・・・・

お茶の火入れの最適温度というのはもちろん決まった数値はありません。

『おいしいお茶』の定義がないように好みのお茶も人それぞれ千差万別です。

緑茶の火入れにおいても、品種や形状、摘み取り時期、あるいは人の好みにより『ちょうどいい火入れ温度』に範囲があるのは当然です。

しかし、そのことが『火入れなんてこんなもんでいいだろう』と安易に妥協した『テキトーな火入れ作業』で自己満足しているケースを生んでいる原因でもあるのです。

長年に渡り、全国各地の様々な緑茶を火入れした弊社の経験からいえば、お茶を焦がすとか極端なケースを除き、誰でも感じる『ちょうど良い温度』は品種に関わらずある一定の温度帯に納まっているのは事実です。

お茶を加熱して香りが出始める温度と、焦げる温度との間は物理的にも広くはないのです。

火入れの最終工程でせいぜい95℃から145℃の間に、ごく普通のお茶であればもっと狭い範囲、110℃から135℃くらいの温度範囲にほとんど納まっていると感じています。

これはお茶の旨み成分であるアミノ酸と糖分の発生する温度帯に関係すると思われます。

これにつきましては香りの混在のページをご覧下さい。

火入機の性能としてはこの25℃の範囲の温度制御を出来るだけ正確に行うことが必要です。95℃から徐々に温度を上げてゆき、好みの香りがでたらそこで調整を固定する。

火入れの基本はただそれだけです。

火入れの最終段階で希望する温度の10度~15度以内の範囲で保つことが必要になります。

何十キロものお茶のすべてを短時間に同じ温度にする、それを実現するためには方法はひとつしかありません。

お茶を何十キロの塊として考えず、一枚一枚の葉っぱとしてとらえることです。

HOT-1の火入れ原理

HOT-1の火入れ原理はごく単純で、10kgのお茶ではなく、もっと少量の1kg以下のお茶を火入れすることを前提にしています。

HOT-1のトラフ(バイブ)の全長,つまり火入れ空間は3段合計で合計5.4Mもありますが、トラフ上に載っているお茶は1台分3段合計で約1kg程度しかありません。トラフの上のお茶は一枚一枚重ねずに薄く広げます。

HOT-1の場合、温度分布はおおよそ図4のようになります。

図4.HOT-1で火入れされた茶温の温度分布

図4

もともとサンプルが少量のためほとんどのお茶は120℃付近になります。

ラインバーナーでありながら、トラフ全面に同一熱量を放射する独自の均一加熱構造(PAT済)を装備することによりさらに高精度の加熱が可能になりました。(各段独立自動温度制御付)

これを連続的に繰り返すことですべてのお茶を何十キロあっても120℃近辺に保つことができます。(図5)

図5.HOT-1で火入れされた茶温の温度分布

図5

これがHOT-1にしかない火入れの基本原理です。

HOT-1はピンポイントに温度制御できますから、お茶が最も香りを放つ温度帯ギリギリまで火入れが可能です。

しっかりした養分がそなわったお茶であれば火入れ温度を今まで以上に上げても変色せずに緑色を保ち、いっそう良い香りが立ち込めるものです。

火入れに熱ムラがあると、この領域まで加熱できません。

どんな良いお茶であっても温度制御の精度の低さによって本来のおいしさの半分しか味わうことが出来ないとしたら、もったいない話です。

言い換えると、本来備えている香り成分を限界まで引き出すことが出来れば、今までと同じ荒茶であっても商品としてのお茶の価値を大きく高めることができるはずです。

高精度でていねいな火入れをするだけで『うちのお茶はほんとうはもっとおいしいお茶だったんだ・・・』と驚かれると思います。

『火入れ技術』というものがあるとすると、すべてのお茶を同じ温度帯に保つことがまず第一の条件であり、その次に来るのが『このお茶は何度で火入れすると最高の香りを引き出せるのか』、『熱源の特性をどう生かすか』などの技術論だと思います。

今までこの第一条件を満たさないまま『火入れ技術』を云々してきたために、『火入れは難しい』という曖昧な結論で終始していたのではないでしょうか。

今皆さんがされてている火入れ方法が本当に適切なのかどうかぜひ考えてみてください。

因みに回転式ドラム以外の火入機の温度分布はどうでしょうか。

HOT-1の構造に似通っている、他メーカーのトラフ式の火入機(トラフの上から数本の遠赤バーナーで直接照射する構造)の場合。通常トラフ上に流すお茶は5mm~1cmくらいの層にするのが標準のようです。

基本的には攪拌しないため温度は正規分布しません。

ラインバーナー(直線状のガスバーナー)はトラフ全面を均一に加熱する均熱板を持っていない場合、バーナー直下部の表面だけは超高温になり、層の下部は低温のままです。またバーナーがない部分を通過する際には茶温が低下します。

ずれにしても均熱構造も攪拌構造もない場合、温度分布は大きく偏ると考えられますので流す量を少なめにして温度制御にかなり気を使って火入れする必要があります。